Cell(細胞)を基本概念に独自の造形原語を確立した現代美術作である作者が、京都市立芸術大学在学中の1994年から96年に撮影した写真作品35点を収録。
35mmフィルムカメラを手に京都の町を歩いた作者がスナップショットで撮影した写真は、演出されることなく、偶然出会った被写体が控えめな距離感で時に思い掛けない構図で切り取られている。動物の剥製や玩具などの表面をクリスタルガラスの球体(レンズ)で覆った作品「PixCell」によって名和は、カメラのレンズ(現在はスマートフォンのレンズ)を経てネット上に日々アップされる膨大なイメージの大海に世界が飲み込まれ、ものの表皮である物質性が希薄化し、世界が映像化するデジタル時代の幕開けを鋭く指摘した。今回の作品集に収録された35点の作品は、「PixCell」の原型となる作品が生まれた2000年の数年前に撮影されている。
「京都芸大の彫刻科で学び始めた頃、自分が作家として何がしたいのかよくわからない時期が続き、下宿にあった中古のカメラで写真を撮りだした。
街をうろつきながら、興味の向くまま撮り溜めた写真は、今まで特に振り返ることもなく、 実家の段ボール箱のなかで二十数年が過ぎていた。
この頃の自分には、人々や街や時代の空気を傍観するような態度があった。しかし時折、 衝動的に惹かれたものが写真のなかに見え隠れしている。」
-名和晃平 2021年5月